駒妖

出会い

前書き

人に話すのを躊躇する物語がある。それは、批判を恐れてではなく、その物語があまりにも深く自分を変えてしまい、以前の自分を認識できなくなるからだ。吉郎の証言はまさにそういった類のものだ。

四十二歳の吉郎は、大阪のオフィスで波風立てることのない人生を送っていた。安定した仕事、機能的なマンション、整然とした日常—波風を立てない生き方を、ある人は賢明と呼び、またある人は諦めと呼ぶ。

9月のある夕方、残業と積み重なる書類に疲れ果てた彼は、同僚からの誘いを受ける。ささいな決断、取るに足らない選択。リージェンシー・バーは、結局のところ、街の賑やかな通りに佇む数多くの店の一つに過ぎないのだから。

その夜そこで起きたことを、吉郎は自分の言葉で語る。それは、人生にもう驚くことなどないと思っていた男が、時として人生には予想外の展開があることを、時には痛みを伴いながら発見する物語だ。

物語の一部

運命の香り

私たちはエレベーターに向かって歩いていた。廊下は静まり返り、足音だけが響く。中に入ると、ドアは静かな音を立てて閉まった。中は冷んやりとしていた。

ヒロは相変わらずアキコとバーについて話し続けていた。花と木の香りが入り混じった、かすかな香りが漂っていた。私は密かにその女性の残り香を嗅ぎ、好奇心をそそられた。この夜がいい方向に向かうような予感がして、内心微笑んでいた。

普通の夜?

は、はじめましてとメイは、そのブラウスの大胆な胸元とは対照的な恥ずかしそうな様子で言った。

よろしく、ヨシ!とユキは軽く頭を下げた。その動きは彼女の引き締まった体つきを自然と引き立てていた。彼女の輝く目が私と合った。

私はメイとユキの間の空いている席に座った。両側から彼女たちの体温を感じる。

もう会えないんじゃないかと思ってたわとアキコは冗談めかして言った。ヒロがあなたの話ばかりするから、本当に存在するの?って思ってたのよ

詳細

ISBN
978-2-9589581-6-9
発行日
著者
出版社
差し手
形式
電子書籍
シリーズ
駒妖奇談集、第1
ジャンル
  • フィクション
  • ファンタジー
  • 幻想小説
『出会い』の表紙 - 日本の将棋バーでの夜の場面